2015年

8月

23日

個人事業主が知っておきたい相続の基本知識

個人事業主として事業を開始すると、自らが主体となって経済活動を自由に行うことができるようになると同時に、取引上も大きな社会的責任が生じることとなります。なかでも「万が一、自分にもしものことがあったら家族や取引先に迷惑をかけてしまうのではないだろうか…」と漠然と不安に感じている個人事業主は多いようです。今回は、個人事業主に「万が一のこと(死亡)」があった場合に備え、あらかじめ知っておきたい最低限の相続の基本と対策をご紹介致します。

※本記事は「経営ハッカー」様に執筆させて頂いた記事と同様の内容となります。


個人事業主の事業用資産は、個人の資産と同じく「相続人」に承継

個人事業主として事業を始めますと、会社を設立(取引の主体となる「法人格」を取得)して事業を始める場合とは異なり、あくまで「個人」としての名義で、店舗を借りたり不動産や自動車を購入したり、取引に使用する銀行口座を作ることになります。いくら個人資産とは別に「事業用資産」であることが明確であったとしても、民法上は「相続」(故人の財産等につき、相続権を持つ親族等がそのまま承継すること)の対象になります。また、金融機関や親族からの事業資金の借り入れがある場合や取引先への支払い(未払い債務)が発生している場合など、そのような「マイナスの財産(債務)」についても相続の対象となり、相続人に返済義務や支払義務が発生するため、注意が必要です。


相続手続きの流れ

それでは、個人事業主が死亡した場合に、相続人はどのような流れで手続きを進めればよいのでしょうか。共同経営者や後継者の有無、「遺言書」(相続の方法について故人が決定した法律文書のこと)の有無等によっても相続手続きの流れは異なりますが、おおむね次のような流れで相続手続きを行います。


相続人の調査(亡くなられた方の出生から死亡までの一連の戸籍収集)

まずは法律上、相続人が誰になるかを確認し、それを対外的に(公的に)証明するために、故人の死亡から出生まで遡る一連の「戸籍謄本」等を集める必要があります。戸籍謄本等の取り寄せは、住所地ではなく、本籍地のある市区町村役場に対して請求する必要があるため、本籍地が遠方にある場合や、相続関係が複雑で相続人が多数いる場合では、戸籍謄本等を集めるにも大変な労力となり、必要な範囲の戸籍謄本等がきちんと揃うまでに2週間以上かかる(特に相続人が多い場合は2カ月程度かかることもあります!)ということも珍しくありません。なお、相続人は、原則として、①実子・養子(子が先に死亡している場合は、孫・ひ孫も含む)、②親(直系尊属)、③兄弟姉妹(先に死亡している場合は、甥姪も含む)の順番で決定され、配偶者がいる場合は、配偶者も常に相続人となります。


相続財産の棚卸し

上記①の戸籍謄本等の取り寄せと同時期に(死亡から速やかに)、個人事業主の個人資産及び事業用資産がどれだけあるかを確認し、後の「遺産分割協議」及び「相続手続き」を不備なく実施するため、「相続財産の棚卸し」を行います。特に、金融機関からの借り入れや取引先に対する債務(※金銭債務に限らない)、従業員に対する賃金の支払い債務等については、早急に確認し、遅滞がないようにすることが大切です。


『遺産分割協議書』の実施

相続人が戸籍謄本等から明らかにされ、個人事業主が有していた財産関係も明らかにしたうえで、いよいよ「遺産分割協議」を行います。言葉はやや難しいですが、「相続人の誰がどの財産を引き継ぐのかを決める話し合い」を行います。ここで注意点は、遺産分割協議では、相続人全員の間で行うものであり、相続財産を相続人以外に承継させることはできない、という点です。つまり、共同経営者や後継者がいたとしても、その共同経営者や後継者が「相続人」に該当しない場合は、いくら事業用資産であったとしても、その資産を承継することができません。
なお、記載財産に不足がなく有効な「遺言書」がある場合や相続人が1人しかいない場合は、遺産分割協議は不要です。

金融機関等での相続手続きの実施(預金の解約手続き等)

 「遺産分割協議」が無事にまとまると、決定した遺産分割協議内容(有効な遺言書がある場合は遺言書の記載内容)に従い、速やかに相続手続きを行います。必要に応じて「遺産分割協議書」(※相続人全員の印鑑証明書原本の添付が必要)を添付し、取引に使用している金融機関口座を解約・名義変更したり、個人事業主が借りていた店舗等の賃貸人の地位を承継したり、各種リース契約を締結(又は解約)したりすることができますが、どのような書類が必要かなどは各手続き先で異なるため、非常に煩雑な手続きとなります。なお、個人事業主が有していた「許認可」(宅建業や建設業、個人タクシー事業など許認可が必要な事業は多岐に渡ります)については、事業を継続したいと考える場合でも、後継者の要件不備等でそのまま承継することができず、再度許認可を取得し直す必要が生じる場合があるため注意が必要です。


税務手続きや社会保険手続きの実施

個人事業に対する課税状況や社会保険加入状況により必要な手続きが異なりますが、死亡してから速やかに管轄の税務署や年金事務所、ハローワーク等に必要な手続きを確認し、遅滞なく行う必要があります。特に「準確定申告(4カ月以内)」や「相続税申告(10カ月以内)」が必要な場合に、手続きが遅れてしまうと税務上のペナルティが発生することがあるため注意が必要です。


個人事業主が相続に備えて行うべき5つの対策

上記のとおり、個人事業主の死亡により、その相続人が行うことになる相続手続きは非常に大変です。相続税の申告や不動産の名義変更、遺産分割協議書の作成などの専門的な相続手続きは、それぞれ税理士や司法書士、行政書士にある程度任せることができますが、それでも相続人の精神的負担や経済的負担は少なくありません。残された家族の負担を少しでも軽減するために、個人事業主が行っておくべき対策として、以下の5つの対策が挙げられます。


『公正証書遺言』の作成

→有効な「遺言書」を残すことで、事業用資産についてのみ、相続人以外の後継者に直接承継(「遺贈」といいます)させたり、相続人間の「遺産分割協議」に任せることなく、財産の承継方法を決めたりすることが可能です。もっとも基本的かつ重要な対策ですが、「遺言書」が無効になるケースもあるため、行政書士等の専門家アドバイスのもと、公証役場にて「公正証書遺言」という形式で作成することが望ましいです。なお、公正証書遺言の作成には、「証人2名」の立ち合いが必要です。


業務管理簿の作成と共有

→例えば個人事業として建築や設計業務、WEBサイトの制作やデザインの請負いを行っている場合、進行中に個人事業主が亡くなってしまうと、発注者に重大な損害が発生する可能性があります。日常から業務をなるべく属人化させない工夫や(個人情報に注意しつつ)情報共有の仕組みづくりをすることが大切です。


取引先(顧客)名簿の作成と共有

→取引先(顧客)名簿を作成することで、相続人が個人事業主の債権債務関係を明らかにしたり、取引先へ訃報の連絡をしたりするうえで非常に役立ちます。個人事業主は業務や取引関係が属人化しやすいため、業務管理簿の作成とあわせて日ごろから用意しておくことが大切です。


事業用資産目録の作成と共有

→事業に使用している動産(自動車やPC、デスク等。特にリース物件は勝手に処分できないため注意が必要。)に加え、運営しているWEBサイトやSNSアカウントのログイン情報についても重要な情報です。また事業で使用する金融機関口座やクレジットカードの有無等も忘れずに記載しておくと、相続人が行う「相続財産の棚卸し」の負担が大きく軽減されます。



生命保険の活用

→前述の通り、個人事業主の借入金についても、(住宅ローンのような「団信保険」が付いている場合を除き)債務として相続人にそのまま承継されます。個人事業は個人事業主のスキルや経営能力で成り立っていることが多く、個人事業主の死亡により、相続人が事業そのものを承継できないケースや業績が悪化することが珍しくありません。このような借金の返済の対策として、あらかじめ返済資金に応じた生命保険に加入し、保険金の受取人を相続人にしておくことで、相続人の経済的な負担を軽減させることができます。また、保険金の請求は、相続手続きとは異なり、短期間で保険金の支払いを受けることができるため、「事業資金が銀行口座から引き出せず、債務の支払いができない」という事態にも対応することできるため、資金繰りの急な悪化に対しても非常に有効な対策となります。


まとめ

前述のとおり、個人事業主の相続手続きはとても煩雑ですが、事前にしっかりと対策をすることで相続人の負担を大きく軽減し、取引先に対しても信頼を保つことが可能です。後継者や共同経営者がいる場合は、「法人化」して事業用資産を法人に帰属させることも有効な対策となりますが、個人事業主のうちにできる限りの対策を行うことを推奨します



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