2019年12月4日に行政書士法の改正案が可決され、登録済みの行政書士が「1人」で「法人成り(行政書士法人の設立)」を行うことが可能となりました(※施行は公布から1年6か月以内とされています:本記事執筆時点で未施行のためご注意ください)。これまで、株式会社や合同会社と同じく、弁護士法人及び社会保険労務士法人でも「一人法人」認められておりましたが、これにより「2名」集めることなく法人化できるようになり、今後、多くの行政書士法人設立(※一人法人)が見込まれます。なお、司法書士法人と土地家屋調査士法人についても、2019年の法改正により、「一人法人」が可能となっております(法務省HP:司法書士法及び土地家屋調査士法の一部を改正する法律について)が、税理士法人については2人以上の資格者が必要となっています(※今後、改正が見込まれています)。
本記事では、今回の法改正で認められることになった「一人行政書士法人」のメリット・デメリットについて、行政書士法人を設立して満4年以上の経験を有する代表社員野村篤司の個人的見解を記載していきます。なお、従来通りの「複数」での行政書士法人設立のメリットについては、以下の記事を参考ください。当社が法人化を早期に決めた理由を記載しています。 →「行政書士法人化した3つの理由」(別ブログ記事)
なお、2019年11月末現在の行政書士法人数や行政書士登録数については、下の画像を参考にしてください(日本行政1月号より抜粋)。
メリット(有利な点)について端的にまとめますと、次の3つが挙げられると思慮します。
①「法人」に対する信頼性の獲得
→これは「法人格の取得」により、「外形的に」判断される部分です。たとえ「一人行政書士法人」であっても、形式的には「個人事務所ではない」ため、「法人か否か」という点において、個人事務所よりは(一般的に経済的取引上の)信頼性が高いです。特に大手企業が外注先として行政書士を探す場合では、複数名と面談して費用面などを比較考慮し、稟議にかけることも珍しくありません。その際に、「個人事務所は対象としない」としているところも少なくないため、「法人格を得る」ことは信頼性獲得のうえでプラスに寄与することは間違いないでしょう。
②税務上及び社会保険上のメリット
→所得水準によっては税率が所得税率よりも法人税率の方が低いことや、給与(役員報酬)を経費として参入することが出来るなど、たとえ「一人行政書士法人」であっても、一般的な法人化のメリット(※外部サイト)が享受できます。この点は、個別具体的に顧問税理士にご相談されると良いでしょう。また、コスト的には増加要因になりますが、保障が手厚く、年金額も国民年金と比べて多い「社会保険」に加入することが可能です。自営業者が中心に加入する「国民年金(や国民健康保険)」と比べて、厚生年金の手厚さは驚くほどです。
③人材の採用面
→事業拡大局面において、「個人事務所」と比べて、たとえ「一人行政書士法人」であっても、人材を採用しやすいと言えます。これは「社会保険の適用事業所である」点が大きいですが、個人事務所の求人と「法人(会社)」の求人では求職者から見た場合のイメージが違います。「個人の事務所」はどうしても閉鎖的であり、属人的な「イメージ」があり、敬遠される傾向があります。ちなみに、当社では一般的なアルバイト求人情報誌に掲載したところ、3週間で30名を超える応募がありました。個人事務所であったら、これだけの応募はないのではないでしょうか。実際に今いるスタッフに尋ねても、「個人事務所への応募は避けた」というのが全員一致の意見でした。
次に、「一人行政書士法人」のデメリット(不利な点)を考えてみました。主に以下の2点が気になる部分ではないでしょうか。
①結局は「一人」
→「一人行政書士法人」は「法人格」こそあれど、実態は「一人」であることに変わらないので、唯一の受任者である行政書士に緊急時や万が一(突然倒れて意識不明に陥った場合など)のことが発生した場合に、顧客へ迷惑が掛かる可能性が残ります。これは「一人事務所」のデメリットと同様です。なお、「複数」での行政書士法人化で得られるメリットのうち、「複数拠点を設置できる」というメリットが「一人法人」では享受されない点は要注意です(事務所ごとに社員行政書士の常駐義務があるため)。
②運営コストが増大する
→個人会員分に加え、法人会員分として会費が発生したり、行政書士損害賠償保険料の保険金額が上がったり、顧問税理士への顧問料(外注費)が発生したり、ネットバンキングの利用料が増加したり、何かとコスト増になります。たとえ赤字であっても、最低限の「法人住民税(均等割額)」の支払い義務が発生してしまうこともコスト増の一つです。
→上記のメリット・デメリットを踏まえ、筆者の見解では、以下の通りです。
①雇用や複数拠点化など事業を大きくするつもりがなければ、一人の状態で法人化する必要性は乏しい
→行政書士事業を行う理由は人それぞれですので、「事業を拡大するつもりがない」という方がいらっしゃるのも当然理解できます(むしろ半数以上がそうではないでしょうか?)。このようなお考えの場合は、特に「一人法人化」する必要性は乏しいでしょう。
②反対に、事業を拡大させたいのであれば、デメリット以上のメリットが享受できると考えるので、この法改正のチャンスを活かすべき
→これまでは事業拡大を目指して「法人化」したくても、相方となる行政書士が見つからないなどの理由で、なかなか法人化できない事務所が多くありました。「ビジネスは信用」ですので、法人化によって受注が増えることも期待できます。コスト増は十分に回収することが出来るでしょう。このチャンスを活かさない手はありません。
経営方針に良し悪しはなく、全て個人の自由なので、特に正解があるわけではありませんが、事業拡大を目指す方にとっては、今回の行政書士法改正は追い風になることは間違いないでしょう。
以上、一人法人化の際の比較、参考になれば幸いです。なお、「一人法人化」については、2018年春ごろから既に動きがあったため、以下のメルマガにも既に考察をしています。前半は無料で購読可能ですので、ぜひご覧ください。
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